田川伸一郎のブログ

深い愛情に包まれて

昨日は、県内のある市の授業研究会に講師としてお招きいただきました。

授業される先生は、今年でご退職を迎えられる女性の先生です。

授業者を決める話し合いの場で、「教師生活のまとめに...」と、ご自身から手を挙げられたそうです。

指導案と一緒に送られて来た達筆のお手紙...「・・・学校生活が終わろうとしているが信じられないくらい、授業をやるのが、今一番楽しいです。当日はふだん通りに自然にできればいいのですが・・・。たくさんの先生方にお見せできるような授業ではなく少し心苦しいです。厳しいご指導、私は大丈夫ですので、ぜひ心置きなくアドバイスいただけたらと思います。・・・」

このお手紙を指導案と一緒に大切に持って、私は学校へと向かいました。

初めてお話しする先生は、今年で定年とは思えないほど、フレッシュで若々しくて、笑顔いっぱい温かさいっぱいの素敵な先生でした。
お手紙をいただいてから、かなり緊張していた私は、先生にお会いした途端、先生の「ワールド」に惹き込まれるほどの何か見えないお力で身体も心もリラックスすることができました。

子どもたちは、先生のおかげできっと心開いて、楽しい音楽の時間を過ごしているんだろうなと、ワクワクしてきました。


先生は、長年、中学校の先生をされていらっしゃいました。
教師生活の最後の学校は小学校にと、ご自分から小学校を希望され、5年間、この小学校で1年生から6年生までをぎっしりの時数でご指導して来られました。

中学校でのご経験を生かして、小学校でどんな力を付けて中学校へ送り出したらよいか、そして、そのために中学年、低学年ではどのような力を...

先生は、小学校1年生から中学校3年生までの9年間の音楽教育の流れを、きちんと経験しながらまとめていらっしゃるのです。
まさに、音楽教育のプロの姿です。

今回の授業も、先生から市内の先生方への「プレゼント」のように思えました。


授業は、3年生の『せんりつのとくちょうをかんじとろう』の勉強でした。

今回の授業では、「研究授業的な特別な形」ではなく、本当に普段どおりの内容や進め方で展開されました。
その「普段どおり」の中に、先生の長年のご努力により培ったお力や配慮、手立てやさりげない言葉かけが見えました。

先生は、「特別な何か」ではなく、「普段どおり」の中にある最高の授業のエッセンスを私たちに見せてくださったのです。


先生の授業には、良い意味の「厳しさ」もありました。

しつけは1年生の時からきちんと積み重ねられ、特に、時間のけじめを大切にすること、音楽の時間だからこそ「無音の時間」を作ることをとても大切にされていらっしゃいました。
トレーニングとして続けている発声練習の中にも、歌い終わった時に「シーン」とした時間を作られ、「この静けさがいいね」とおっしゃっていました。

中学校でのご経験から、できるだけ「楽譜を見る子ども、楽譜に書かれていることに気づく子ども、楽譜が読める子ども」に育てたいと、様々なタイミングで、繰り返し、音楽用語、音符の呼び名などをご指導されてきたそうです。3年生が当たり前のように「その八分音符が...四分休符が...」としっかり正しい呼び名で話し、しまいには、「ダ・カーポがあるから...」とまで。
「覚えなくてもいいけど...」と言いながら、記号の呼び名や意味もどんどん教えていらっしゃるそうです。
それがいつの間にか子どもの知識となっています。

また、楽譜が要求していることを3年生なりにとらえさせるため、子どもたちの意見を「なぜそう感じるの?」と楽譜から理由を探させます。
どんな意見も大切に聞きますが、安易に子どもサイドの言葉だけでまとめることはされません。


そして、当然のことながら、厳しさ以上に優しさが溢れていました。

時々、先生は子どもたちをご自分の周りに集められ、子どもとの距離を最少にした状態でご指導されます。

自席での学習の時にも、ひとりひとりを短時間に見て歩かれたり、リレーでひとりずつ演奏する活動を、当たり前のように取り入れ、ひとりひとりの子どもを大切に大切に見ていらっしゃいました。

子どもたちがつまずきそうな点をしっかりと予想され、何が起きてもあわてず騒がず笑顔でフォローしたり、手立てを講じる安心感のオーラがあり、子どもたちは常にゆったりと安定した気持ちと表情で音楽していました。

うまくいかない子がいると、「パッとすぐできちゃうのもいいけれど、そういうのって結構すぐ忘れちゃうの。苦労して身につけたことは絶対に忘れないものよ」と。


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授業後の協議会では、先生からこれまでのご経験に基づく、たくさんの価値あるお話をいただきました。
先生方からも、次々と感想や質問が寄せられました。
途中、以前、先生に個人的にお世話になったという先生は、思わず涙しながら...

先生が歩んで来られた教師生活の中で、いかに、多くの先生方と子どもたちに温かく寄り添って来られたかということも、協議会の中でひしひしと感じました。

先生方のお話を伺っているだけで、私は、この場にお招きいただいたことの幸せを感じました。

協議会は、私の話の時間がほとんどなくなるほど盛り上がりました。

「では、田川先生からのご指導を...」の時には、すでに終了予定時刻まで、あと数分というところになっていました。

「講師が話す必要もないほどの話し合いができる協議会は、最高にすばらしいのです。」とお話ししましたが、先生方からのご希望で、約20分も終了予定時刻をオーバーしてお話しさせていただきました。
おひとりもお帰りにならず、耳を傾けてくださいました。

私は、先生の授業の何がどうすばらしいのかを、しっかりまとめてお話しさせていただきました。

アドバイスは、先生の授業に対しては何もなく、協議で話題になったことに回答する形でお話しいたしました。

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先生は、「私は教師生活の最後まで、自分にプレッシャーをかけておきたいという気持ちで授業させていただきました」とお話しされていました。

教師という仕事の持つ神聖さ、子どもへの本当の愛があるからこそ、最後の最後までご自分自身を高めつつ子どもたちに向かい合おうとされていらっしゃるのです。


協議会で、おひとりの若い先生が、「私は、先生の思いをしっかりと受け継いでがんばっていきたいと思います。」と頼もしくお話ししてくださいました。

先生は、この授業を通して、これからまだまだ頑張り続けるたくさんの後輩教師たちに、力強いエールを送ってくださいました。


あと数ヶ月の学校生活、そして、その後も、どうかお身体に気をつけられ、子どもたちを深い愛情でお包みください。
そして、これからもずっとずっと先生方の良き先輩として、エールを送り続けてください。



感動の授業、そして、先生方の真摯な学びにお招きいただき、本当にありがとうございました。

貴市の音楽教育の益々のご発展を心からお祈りいたします。
 


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| | 2013-11-20(Wed)18:40 [編集]