田川伸一郎のブログ

兵庫・大阪から (その3)

次にお伺いしたのは、大阪府の中学校バンドです。

私が大阪に入る直前、このバンドは地区予選に出場しました。
「地区代表常連」、府大会でも毎年上位に入り続けて来ているこの学校は、府大会に向けて、私のレッスンを受けることになっていました。

しかし、「まさかの」予選落ちをしてしまったそうなのです。


先生には、「そんなかわいそうな時に、コンクール曲のレッスンは... 生徒さんも力が入らないでしょうし、どうぞレッスンはキャンセルしてください。私は構いませんから...」
と、お話ししました。

しかし、先生は、「子どもたちは、今、何とか這い上がろうとしています。定期演奏会に向けてがんばろうとしています。音はトーンダウンしてしまっていますが... そんな時だからこそ、先生のレッスンを受けさせたいのです。ブログにあった『光の道』が少しでも子どもたちの前に開けたら...。どうか予定どおり、レッスンをお願いします。」

「わかりました。伺います...」

『光の道を』...「まさかの予選落ち」をしてしまった中学生たちに、自分がしてあげられることは...
ともかく、体ごとぶつかってみよう。きれいごとなんかいらない。
そう決意を固め、私はこの中学校に向かいました。

みなさん、今回はとても辛い思いをしましたね。涙も出ましたね。いいんです。悔しい時には泣けばいいんです。かっこなんかつけなくていいです。きれいごとなんて言わなくていいです。
人間、辛い時にこそ、心が素直になるものです。
自分は本当に音楽が好きなのか?
自分は本当に仲間が好きなのか?
・・・

今こそ、皆さんが自分を見つめられるよいチャンスなのです。

嬉しい時はだめなのです。
音楽が好きで嬉しいのか、金賞が取れて嬉しいのか...
こんな大切なこともごちゃごちゃになってわからなくなるのです。

私も、何度もコンクールで「まさかの結果」を味わいました。
でも、やっぱり音楽が好きで、ずっとずっと投げ出さずにやってきました。

今日は、あなたがたが自分自身の気持ちを確かめる時間になればと思います...



新浜小学校吹奏楽部のDVDを皆で鑑賞しました。

『輝きの海へ』
『はてしなき大空への讃歌』
『ミス・サイゴン』
『マゼランの未知なる大陸への挑戦』...


食い入るように見つめていました。

『はてしなき大空への讃歌』を演奏した時の6年生のアルトサックスのYさんは、演奏会を前にしてお母様を病気で亡くしました。心配していた私に、「大丈夫です。私が弱音を吐いていてもお母さんは喜ばない。天国のお母さんに聴いてもらえるように演奏します。」と、強い心で立派に演奏してくれました。

そんな実話も話しました。

「すごいです。」
「言葉にできないのですが、ともかく感動しました。」
「小学生なのに、私たち中学生よりも表現力もあって...」
「体全体で表現しようとしていて...」
「音楽で語りかけてくるような...言葉もないのに...」
「みんなが本当にひとつになって演奏していて...本当に音楽が好きなんだなと...」
・・・


涙をこぼしている生徒さんもいました。

「小学生が、小さい体を精一杯伸ばして、小さいパワーを皆で束ねて...今、小学生の演奏から受けたような感動を、今度は君たちが誰かに与えられたらすばらしいと思いませんか?ブログを読んだ人は知っていると思いますが、『輝きの海へ』を聴いて、不登校になりかけていた中学生が勇気をもらって学校に行けるようになったというのです。そして、その後も自分を支えてくれた。という話が載っていましたね? 君たちの演奏が、誰かを支えられたら、それは金賞以上にすばらしいことなのです。定期演奏会で、そんな演奏をしてみたいと思いませんか?そんな高いハードルを乗り越えてほしいのです。金賞以上に高いハードルを!」

「さあ、練習しましょう!」

ここからが、私の「賭け」でした。

何が何でも、この中学生たちの心に「光の道」を与えてやりたかったのです。

「やりましょう。コンクールの自由曲を。普通だったら、顧問の先生に指揮をしていただき、演奏の状態を聴かせていただいてからレッスンをするのですが、今日は、先生がいきなり指揮をします。こんなレッスンは、他ではしません。君たちだけ特別です。」

私は、すべて今日を「新しいスタート」にしてあげたかったのです。
顧問の先生の指揮でという「いつもの練習」はしたくなかったのです。

「しかし、先生はこの曲を演奏したこともないし、楽譜ももらったばかりで、まだ指揮がうまく振れるかどうかわかりません。先生が、しっかり振っているところは、いつもと違っても先生の指揮どおりに。先生が迷子になったようだったら、君たちがまとまって演奏してください。先生、こうだよ!と演奏して、先生を助けてください。
先生と君たちとの協力で何とか最後までたどりつこう!
では、はじめます!」

みんな真剣な眼で私を見ています。

先ほど見たばかりの小学生の「力」
目の前で真剣勝負しようとしている私の「本気」

コンクールで悲しい思いをしたことなど、今は考えられない状態になっていたと思います。

指揮を振り下ろしました。

強烈な打楽器のffで曲は開始します。
美しいコラールを経て曲は盛り上がり、急速な部分へ...

見事に着いてきます。

私は、すでに汗をかき、わざと振りを大きくして、生徒たちに力を与えながら指揮をしました。

わずか2~3ヶ所の乱れがありましたが、私の指揮にぴったり着いて演奏しました。
いつものテンポなど知りません。
私が考えたテンポです。

終曲のあたりで涙を流しながら演奏している生徒さんもいました。

「すばらしいです。すばらしいバンドです。君たちは、まだまだできます。やりましょう!」



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ここからは、さらに真剣勝負でした。

「そのコラールは、もっと心の中で!そんな重心が高い音楽じゃない。『ねえ、聴いて!聴いて!』ではなく、もっと周りの人の方から聴きに来るような深い吹き方だ!」
「そこのフルート!そのメロディーは、美しいけれど、希望や夢がある部分なんだから、もっと高い所で音を出しなさい。」
「そこのつなぎのフレーズは、『わかってあげてください』という風に吹かなきゃダメだ!」
「そこの木管のレガートなメロディーは、もっとみんなで束になって演奏しなさい。ひとりひとりの音がバラバラに聞こえてくるよ!もっとみんなで束になって!」
「そこの六連符は、そんなに軽い流れじゃない。もっと力のある六連符だ!流れちゃダメだ!」
「違うよ!!軽いんだよ!!」
「もっともっと意志のある音で!意志だよ!」
「どうして、そうやって音を捨てるんだ?その四分音符は、捨てるんじゃなくて抱きしめるんだよ!」

「その吹き方じゃ、Energicoにならないよ! 立って、はい! 歌って! 手も使って、そんな足じゃEnergicoにならないよ! もっと声出して! 音程なんて狂っていいんだから、もっとエネルギーを外に出して!先生にぶつけてみろ! バリサク君、先生の手を思い切り叩いてみろ! ちっとも痛くないよ! もう一度! 思い切り叩けばいいんだよ!」
「何やってるんだ! だめだ! まだまだ足りない! 甘いよ! 」
「さっきの小学生たちは、頭のてっぺんから足の先まで使って表現していただろう?」

吠えました。
もう「自分のバンド状態」でした。

休憩も取りませんでした。

一瞬たりとも休む暇を与えませんでした。


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生徒さんたちの顔が、輝いてきました。
本気でぶつかっていく私に、本気で返してきました。

私のシャツは、汗で重くなっていました。
私の下にはたくさんの汗が落ちていました。

飲み物も飲まずに続けました。


「よくがんばりました。これが先生との最後の演奏です。」

今朝、出会った時とは全く違ったたくましい中学生の姿がそこにありました。
『光の道』を見つめる希望に満ちた眼がありました。

顧問の先生、お母さんたちが見守る中、皆、全力を出し切って「感動的な音楽」を音楽室いっぱいに奏でました。

「みんな、すばらしいです。 先生、すばらしい生徒さんたちです。 君たちはこんなもんじゃないです。まだまだできます。君たちの力はすばらしいものなのです。もっとできます。 君たちの演奏を聴いてくださった方に、勇気や夢や希望を与えられたら、それは金賞以上の価値があるのです。 ぜひ、そんな演奏をしてください。 君たちならできます。」

「これで、私のレッスンを終わります。」

部長さんが、少し涙ぐみながらあいさつをしてくれました。

先生も、涙ぐみながら、握手をしてくださいました。

こうして、私の「魂のレッスン」は終わりました。

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定期演奏会に向けて、みんなでがんばろう! しっかりと手をつないで!
「金賞」よりも、もっともっと高いハードルを飛び越えよう! そう!音楽ってすごいんだよ!



先ほど、顧問の先生からメールが届きました。

生徒さんたちの作文の一部です...


・田川先生のレッスンは、言葉に言い表せない素晴らしい経験になりました。コンクールが終わって、今何を考えたら良いのか分からなかった私たちに答えを言うのではなく、見つけさせてもらいました。もちろん、今後の演奏、部活を進める上で参考にしますが、これからの人生の中で今日学んだことを活かして田川先生のような人になれるように少しでも近づけたらいいなと、思います。
・田川先生には、全国大会で金賞をとることよりも素晴らしく大切なことを教えていただきました。結果がどうだではなく、自分たちの思いのある演奏が、相手にどんな感動を受けてもらえるか。人々の心に残ったか。これができるなら、他はもう何もいらない。
・田川先生は、自分たちに足りないことを教えてくださったと思います。曲を演奏する上でも、クラブを続けていくうえでも、人間としてこれから生きていくうえでも、すごくすごく重要な大切なことを全身で伝えてくださったと思います。理屈じゃない言葉では表せないような「思い」を伝えてくださりました。伝えてくださった「思い」を自分達が演奏する「音楽」に込めようと思いました。心から尊敬できる先生に指導していただけて本当に良かったです。



みんなは、もう大丈夫だね。

音楽って、君たちが考えている以上に、もっともっと「すごい力」を持っているものなんだよ。

そんな「誰かの人生」を変えられるような音楽を探していこう!

君たちならできる!

絶対に!

先生といっしょにがんばれ!





3日間の兵庫・大阪への旅を通して、すばらしい先生方、生徒さん方に出会うことができました。
そして、たくさんの感動に出会うことができました。
私のつたないお手伝いが、ほんの少しでもお役に立てていたら...

またお会いしましょう!

お招きくださった先生方、ありがとうございました!















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